2025.05.18
長い介護の果てに

彼は、20年近く親の介護を続けてきた。
仕事を辞め、友人との付き合いも減り、気がつけば家庭も壊れていた。
妻とは静かに離婚し、子どもとも距離ができた。
それでも、親の手を離すことはできなかった。
やがて、母が静かに息を引き取り、その後を追うように父も旅立った。
その夜、彼は涙を流しながら、ぽっかりと空いた心の空白を見つめていた。
「終わったのか……じゃあ、これから何をすればいい?」
時間だけが、ただ過ぎていった。
生気を失った彼を心配した妹が、一人の女性を紹介してくれた。
彼女もまた、十数年にわたり夫の介護をしてきたという。
最初はたどたどしい会話だった。何を話せばいいのか、分からなかった。
けれど次第に、ふたりは少しずつ心を開いていった。
介護の苦労、家庭の崩壊、そしてその後の虚しさ。
彼女には、不思議と何でも話すことができた。
「私も、自分の時間なんてなかったなって思うんです」
「同じですね。気づいたら、人生が終わってたみたいで」
ある日、彼女が笑顔でこう言った。
「でも、終わったわけじゃないですよ。これから始めたって、いいんです」
その言葉が、彼の胸に静かに残った。
やがて、ふたりは自然と一緒に暮らすようになった。
特別なことは何もない。でも、毎日は少しずつ、色づいていった。
「ようやく、自分の人生を歩いている気がするよ」
と彼が言うと、彼女は優しく微笑んでこう答えた。
「ちゃんと、歩けてますよ」
穏やかな人生の始まりがそこにはあった
この二人は介護という共通点から惹かれ合いました。
好きな事や似たような体験をするということは縁に繋がりますね